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福岡高等裁判所 昭和33年(ネ)308号 判決

控訴人 昭建輸送機株式会社

被控訴人 市原浩吉

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代表者は「原判決を取消す、福岡地方裁判所直方支部が同庁昭和二七年(ケ)第一号不動産競売事件について昭和三〇年一月二〇日なした競落許可決定は無効であることを確認する、被控訴人は控訴人に対し原判決添付目録不動産につき福岡法務局直方支局昭和三〇年三月二五日受付第一、〇二九号をもつてなした競落許可決定による所有権取得登記の抹消登記手続をなすべし、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述竝に証拠の提出認否は、控訴代表者において、控訴人は昭和二八年五月二日訴外復興金融金庫に対し本件競売申立債権について分割弁済の申込をし、同金庫は同年六月一六日これを承諾し、且つ本件競売申立を取下げることを控訴人に約定した。そこで本件競売手続は昭和二八年六月一六日において実体上効力を失つたものである(原審において失効日を昭和二八年五月二日と主張したのを右のとおり訂正する)。本件競売手続は控訴人の申請に基く福岡地方裁判所昭和三〇年(ヨ)第三号仮処分決定により昭和三〇年二月一七日停止された。そこで被控訴人は右仮処分前である同年二月九日に競落代金を納入した本件不動産の所有権を取得したとしても、その競落による所有権取得登記がなされたのは右仮処分による競売手続停止後である同年三月二五日であるから、該登記は仮処分に違背する違法のものであつて当然抹消さるべきものと信ずると述べた外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

当裁判所は左記理由を附加する外、原判決の示すところと同一理由により控訴人の本訴請求は理由ないものと判断するので、右原判決理由をここに引用する。

抵当権実行による任意競売において、抵当債権が弁済その他の方法により消滅し、従つてまた抵当権も消滅するに至つた場合は、爾後形式的に適法な競売手続が進行して目的不動産が競売されても、その競落人は実体上有効に目的不動産の所有権を取得し得ないことは当然である。しかしながら単に弁済猶予の合意が成立したに過ぎない場合は右と異り、債権及び抵当権は依然有効に存続するのであるから、爾後の競売手続は実体上無効ではなく、(当事者間に競売申立取下の約定があつたとしても現実に取下がなされない以上競売手続の進行を妨げるものではない)競売により競落人は有効に目的不動産の所有権を取得するものと解さなければならない。故に債務者または不動産所有者は競売開始決定に対する異議または競落許可決定に対する抗告等の方法により当該競売手続上救済を求め得るは格別、競落許可決定確定後において弁済猶予を理由として競売の無効を主張し得るものではない。

次に競落人が競落代金を納入して目的不動産の所有権を取得した後に仮処分により競売手続が停止されても、競落人の右所有権取得に対しては何らの影響をも及ぼすものでなく、爾後の売得金の交付または配当手続が停止されるに過ぎない。従つて競落人の所有権取得登記は右仮処分に抵触するものではなく、これにより仮処分債権者は何らその権利を害されるものでもないから、右登記をもつて違法となすことはできない。

よつて原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので民訴三八四条九五条八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 竹下利之右衛門 小西信三 岩永金次郎)

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